ハッピーエンド至上主義者の憂鬱

 私はハッピーエンド至上主義者です。
 頭に原理的とつけても構わないくらい、徹底してます。
 あらゆる書き手はその能力の限りハッピーエンドを目指すべきだと信じます。


 フェイト/ゼロを書かれているニトロプラス虚淵玄さんは一巻の後書きにて、

物語にハッピーエンドをもたらすという行為は、条理をねじ曲げ、黒を白と言い張って、宇宙の法則に逆行する途方もない力を要求されるのだ。


 と語っていますが、それはぐうの音も出ないほどに正しくて、『ハッピーエンドのためのお話』でないかぎり、物事は自然とバッドエンドへ向かうものです。どうしようもないものは、どうしようもないんです。ハリウッドの映画とか見れば良く分かるはずでしょう。絶対的な戦力差に壊滅的なダメージを受けながらも最終的には宇宙人に勝っちゃったり、あるいはどう考えたって「それは無理!」な自然災害も何とかしてしまえたり。ひぐらしなんかも、そういう無理を通して道理を粉砕した作品でした。(ある意味究極系かもしれない)
 ただ、やはりハッピーエンド至上主義者の私としては、最後の最後までそれを求めるべきなのだと確信しています。その力を失ってしまったという虚淵玄さんは、何様のつもりだと失笑をかう覚悟で言いますが、書き手として死んでいると思います。我々は理に適ったバッドエンドな世界を理によってハッピーエンドにしてみせなければならないのではないかと。どうしようもない物語を、どうにかしてみせるのが書き手です。
 そも、バッドエンドが見たいのならニュースを見れば良いのです。現実はそれに溢れていて、望めば幾らでも手に触れられる距離にあります。偽善的で独善的な幸福なんかより、したり顔で書かれた不幸の方がよっぽど嘘くさく醜い事実を、バッドエンド信仰の人間は思い知るべきなのです。


 ……が、凡百なハッピーエンドは完成されたバッドエンドに劣るものである事も事実ですよね。
 古来より悲劇が持て囃されてきた史実が物語るとおり、美しいバッドエンドはハッピーエンド至上主義者をも唸らせます。
 ようは面白いと感じたのなら何でも良いだけの話にも思えますが、ちょいと発展させて。



 と、ここまで前置き。
 んで、本題のリトバスの話。
(以下ネタバレなのですよ〜)




クリアしてからもニコニコ動画やらで色々見ていて、主題歌やらED曲やらを聴いていたのですが、どっぷりハマってしまいました。
特に『Little Busters!』から『Little Busters! -Little Jumper Ver.-』への変化はたまりません。
まじで歌詞の変化が神懸ってます。乗り越えるまでと、乗り越えたトゥルーエンド後との違いがステキすぎます。
正しくグランドフィナーレを飾る歌として、過去最高だったと確信できます。


が……実際プレイした時ってあんまりそれを感じなかったのですよねぇ。
少なくとも、この歌のような小さいながらも決定的な差が得られなかったのです。
それが何でかって言えば、やっぱりバッドエンドがなかったからなのではないかと。
鈴のエンドはバッドと言えばバッドなのですが、私はどうにもあの非現実的な設定が気に入らなくて、それこそ「茶番だ!」と言いたくなりました。あそこはむしろ、恭介の閉じられた世界を強く意識させるような、もっと破滅的な世界を描くべきではなかったのだろうかと。あの世界を構成する仲間達が知らない人間は一人も居ない、終末的な世界であるべきだったのではないかと。そして、事故の事を思い出させる絵があるべきなのではないかと。
逃げた先に待っている破滅こそが、あのシナリオである以上、交換留学が強制収用所扱いになってる展開はぐったりでした。


また、Refrainにおいても、あっさり助けに行っちゃったのが嫌でした。
どうして二人だけが助かった世界を描いてくれなかったのかと。
何度も何度も同じ時間を繰り返し、成長を促しながらも必死になって守り続けた恭介が与えてくれた未来を、一度二人で歩いて欲しかったです。
シナリオとして長々と書かなくとも、一度ENDさせてくれる事で、それが必然的に私にとってのバッドエンドになったでしょうに。
そうすれば、主題歌の変化のように、『小さいながらも決定的な差』を感じられたのに。


と……つまり、そういう事なのです。
要は私は、もっとしっかりしたバッドエンドが欲しかったのですよ。
タイトルにあるように、これはハッピーエンド至上主義者の憂鬱です。
私はハッピーエンドを求める限り、その対比となるバッドエンドを絶対に必要とするのです。
CLANNADで渚が死に、汐までもが死ぬあの結末があるからこそ、グランドフィナーレが感動できたように。
主題歌の破滅を想起させる言葉が、破滅を乗り越えた希望の言葉となるように。
リトバスに足りなかったのは、凶悪なまでのバッドエンドなのだと、結論させていただきたいです。


……その意味で、ハッピーエンド至上主義者は、どっちも欲しい贅沢者なのかも(苦笑